ます、そういう次第でございますから、病人の方には、道庵先生が御同行していることを当分はお話し申さない方がよろしいかと存じます、それから、こちらの大きな方の御厄介者、これが病人よりは一層の難物かと存じますが、この方も万事よろしく」
「ばかにしなさんな」
「ではなにぶん」
「失礼」
「お大切に」
「あばよ」
 これがこの場の最後の挨拶。
 右へ道をとれば山城の国、山科――左は伏見から大阪へ。
 二人の医者は、わざとあんぽつ[#「あんぽつ」に傍点]を空にして、駕籠《かご》わきにつき添って歩いて行く。乗物と人物の見えなくなるまでお角さんは、追分の札の辻に立って見送っている。両国手は、時々振返って、一瓢をささげ上げて、さらばの継足し、その度毎に、お角さんも手を挙げてあいさつを返す。さきに待兼ねていた先発のお雪ちゃんの駕籠のところまで来ると、二人の国手も乗物の中へ隠れて、かくて三乗三従の一行は、追分道を左に綴喜郡田辺の里へ向って急ぐ。
 お角さんは、それを見送って、改めて庄公を引き立て、以前の通り大谷風呂をさして戻りにつく。

         四十二

 お雪ちゃんを追分から南へ送った日のその晩
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