顔役であることは、底を割っておいてもいいでしょう。従って、これから推察してみると、船の物資の補給が、駒井船長を驚惑せしむるほどに迅速且つ豊かであったという理由もほぼ読めるのです。
 すなわち、仏兵助親分の顔を以てして、附近の顔役の総動員によっての、隠れたる任侠であったということが、その時は分らなくても、後刻に至って分らないはずはありますまい。

         三十

 怱忙《そうぼう》のうちにも無名丸は、船出としての喜びと希望とを以て、釜石の港から出帆して、再び大海原に現われました。
 船長としての駒井には、遠大なる理想もあれば、同時に重大なる責任もあるのであります。その理想と責任とは、船の中で、自分のみが知る希望であり、自分のみが味わう恵みである。辛《かろ》うじてお松だけが、ややその胸中を知るのみで、田山白雲といえども、駒井の心事はよくわからない。
 船の乗組は、船の針路に対して、盲従というよりは無知識でありまして、一にも二にも駒井船長を信頼しているのですが、その絶対的信頼を置かれる駒井船長そのものが、船の前途に於て、いまだに迷うているものがあるのです。実際、北せんか、南せんかと
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