に、どうでしょう、あの舟の女は、最も保護すべきものを真先に投げ出している、帯を取ってしまったお土左《どざ》などは、おそらく人間艶消しの頂上でしょう。
 子供なんですよ、からっきし子供なんだから、その辺のたしなみを知らない、そこらへポカリ浮き上ってでも来ようものなら、見てごらんなさい、見られたザマじゃない――とお角さんが、あざけり足らない。
 そうでないとしたら、察するところ、意地で見せつけという寸法なんでしょうよ、思いきってだらしのないところを、誰かに見せつけてやろう――たとえばねえ、生きていては仕返しができないから、せめて、死んだ死骸に、思いきり自分で自分に恥を掻《か》かせて、相手の恥に面負けをさせる、つまり、面あてをする、当てつけをして自ら慰めるというやつなんです。いやで添わされた亭主持ち、金で辱《はずか》しめられた女の仕返し、そんな事も有り得ることなんですが、あの舟のは、そんなんでもないようです。娘ですね、無茶な小娘で、死ぬのを伊達《だて》にしているというような行き方です、つまり浮気娘が出来心で、思いきり死んでみてやれ……といった気分に過ぎませんねえ。
 そんな、ませた小娘は、よ
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