く大物をくわえたがるものです、石部《いしべ》の宿《やど》のお半さんがいい見せしめです、長右衛門さんという人は、何をどうといったエラ物でも大物でもなかったようですが、年上なんでしょう。いったいどちらにしても、年上と恋をするというのがこの上もなくマセた人種なんですよ、年上にダマされて担《かつ》がれたというんじゃないですね、年上の奴でないと食い足りない助平が、つまり、女にも男にも強いから起ることなんで、だいたい、女は男よりも幾つか年下という世間のお約束を破らないとたんのうができない、まあいわば色気ちがいに近い方なんですから、年増の女に捲かれる男はかえって図々しいんです、年上の男を相手にする小娘こそ、こまっちゃくれて憎らしいもんです。見ていてごらんなさい、この娘っ子のくわえて来たのは相当大物ですからね。大物でなければ、キッと年上の男なんですよ。ことによると、白髪《しらが》まじりの重役なんぞをくわえて来ているかも知れません、そんなのが好きな娘なんですよ、相当大物をつかまえて来て、むりやりに水の中へ引張りこんだんですね。
ええ、女が働きかけたんですとも。分別盛りの男が、自分から、小娘を相手に心中
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