蔵が口走って言いました、
「もし、あんたが青嵐《あおあらし》の親分さんでござんすか」
 変なことを口走り出したので、さすがの青嵐居士《せいらんこじ》が、がんりき[#「がんりき」に傍点]の面《かお》を見直しました。そうするとがんりき[#「がんりき」に傍点]が、
「不破の旦那からお頼み申されて参りました、わっしはがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵というしがねえ野郎でござんす、こんた青嵐の親分さんでござんすか……」
 お控《ひけ》え下さいましと、本式のやくざ挨拶に居直り兼ねまじき気勢を見て、青嵐居士も全く面くらいましたが、直ちに合点して、
「ははあ、青嵐は拙者に違いないが、親分ではないよ、君は何か間違いをして来たんだろう、親分でも蜂の頭でもない拙者に向って、改まった口上などは無用だ、それよりは早速、君に聞きたいことは、君が逢坂山からここまで突破して来たその途中の雲行きをひとつ、見たまま詳しく話してもらいたい、湖辺湖岸の物騒な大衆がドノ辺まで騒いで、どんな動き方をしていたか、君の見て来たままを、ここで話してもらいたい」
「そいつを話して上げたいんでしてねえ、先以《まずもっ》て磨針峠《すりは
前へ 次へ
全356ページ中140ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング