《うけひ》くまいし、そうかといって、父伊太夫が、小町庵の娘をたずねるのも順序が間違っている。関守氏とお角さんとが談合の上、幸い、物静かなこの逢坂山の大谷風呂の奥の間が、親子会見の席にふさわしかろうと、そういう取計らいで、会見の場がここときまったものらしい。
 それで、一通りの役者はここへ揃《そろ》ったわけなのですが、かんじんの女王様が見えた様子がないけれど、これも案ずるほどのことはあるまい、すでに御納得があって、胆吹山からここまで動座をされているくらいだから、ここらで異変の起る憂えはない。まず伊太夫を座に招いて置いて、しかるべきバツを合わせて、お銀様をここへ迎える、これは多分、明日のことになるだろうと思います。
 その間は、関守氏と、お角さんとが、まずまあ腕比べまたは舞台廻しというようなわけで、二人は夜の更くるも知らず、何かひそひそと話し合っておりましたが、伊太夫主従は、着早々、一風呂浴びると共に寝《しん》に就いてしまいました。
 それにも拘らず、関守氏の座敷ではまだ燈火《あかり》がして、お角さんが、寝ようとも休もうとも言わない、やっぱり、ひそひそと話し合っている様子でしたが、
「では
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