と言って、お角さんが立ち上って、その隣の間の薄暗い座敷を怖る怖るあけた隙間《すきま》から見ると、その隣の間の正座に、意外にも覆面の人が一人、端坐していました。
 正面の覆面の客というのは、まごう方なきお銀様でありました。してみると問題のお銀様はいつのまにか、ここに安着していたのです。父に先んじて来たか、後《おく》れたか、いずれにしても、ここに安坐して二人の謀議を聞いている。事がここまで運んだ以上は、絶えて久しい父子の対面は無事に実現するにきまっているが、問題は、会見そのことよりは、会見して以後にあるのです。
 これからが関守氏とお角さんの、本当の腕の見せどころと言わなければなりません。

         二十三

 女王と総理とが出動した後の胆吹王国に、留守師団長をつとめたところの人は、前に申す通り青嵐居士《せいらんこじ》でありました。
 この人は、不破の関守氏とは話は合うが、その性格に至って大いに相違した点があると見なければなりません。
 すなわち、不破の関守氏は、一種の詩人でもあり、空想家でもあり、また相当の野心家でもあり、策士でもあるのですが、青嵐居士に至っては、もっとずっ
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