たものですから、それで、われと我が身をせせら笑ってみたもので、不破の関守氏にはどうもその内容がよくわからないから、
「何事にせよ、事を侮《あなど》ってかかってはいかん、この時節だから用心はドコまでも用心をして……」
 関守氏から本格的に戒められて、がんりき[#「がんりき」に傍点]がまたテレました。がんりき[#「がんりき」に傍点]がたった今、危険状態を予想してせせら笑ったというのは、それは、自分が兇状持ちだという思い入れがあったからです。しかし、この野郎の兇状持ちは今に始まったことでない、海道という海道を食い詰めている金箔附きなので、いまさら、無宿を鼻にかけてみたってはじまらないのであるが、ごく最近に於て、このコースで生新しい負傷をしている、指のことは問題外としても、草津の宿で、轟《とどろき》の源松《げんまつ》という腕利《うでき》きの岡っ引に少々|胆《きも》を冷やされているところがある。お角さんの厠《かわや》まで逃げ込み、なおまた大谷風呂の風呂番にまで窮命させられているのは、つまりその祟《たた》りである。そのことを思い出してみると、自分ながらくすぐったいから、それで、おのずから鼻が白まざ
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