のだ」
「湖水めぐりですか、洒落《しゃれ》てますね、どうも、がん[#「がん」に傍点]ちゃん儀、めまぐろしい旅ばかりやりつけているものですから、つい八景めぐりなんぞというゆとりがございませんでした、それを旦那が目をかけて、がんりき[#「がんりき」に傍点]を遊ばせて下さる寸法なんですか、有難い仕合せ、持つべきものは親分でございますよ」
「そんな暢気《のんき》な話ではない、君もこのごろの、湖上湖辺の物騒さ加減を知っているだろう」
「百姓一揆《ひゃくしょういっき》とか、検地騒動とかで、えらく騒いでいるようすじゃございませんか」
「だいぶ民衆が騒いで、一帯に不穏を極めているが、ひとつその空気の中をその足で突破してみてもらいたいんだ」
「トッパヒヒヤロでござんすか、この騒ぎの中で、何か踊りをおどれとおっしゃるんでございますか」
「いや、あの中を突破して、向う岸の胆吹山まで行ってもらえばいいのだ、今、絵図面を見せるから」
と言って、不破の関守氏は行李の中から一枚の滋賀県地図――ではない、近江一国の絵図面を取り出してひろげ、それをがんりき[#「がんりき」に傍点]の眼の前に置いて見せました。
「それ、こ
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