ん[#「がん」に傍点]ちゃんの足を見込んでお頼みとありゃ、後へは引きません」
「よし、では上ろう、御苦労御苦労」
 かくてこの主従は風呂から上って、自分の部屋へ帰りました。
 不破の関守氏は、部屋へどっかと安坐すると、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵を前に坐らせて、自分は床の間から行李《こうり》を引寄せながら、
「時にがんりき[#「がんりき」に傍点]――」
 どうも、呼び名がまちまちで困る。がん[#「がん」に傍点]ちゃんと和《やわ》らげてみたり、がん[#「がん」に傍点]公と角《かど》ばったり、またがんりき[#「がんりき」に傍点]と本格に呼びかけたりするので、かなりめまぐろしいが、
「旦那、御用向のほどを承りましょう」
 しかるに、がんりき[#「がんりき」に傍点]の方の尊称は旦那で統制されている。この男が、関守氏を先生とも呼ばず、親分とも言わず、旦那で立てていることが、かえって空々しいくらいのものだが、この際、この人柄では、旦那呼ばわりが、まず適当というところであろう。そこで関守氏も旦那らしく砕けて、
「実は、がん[#「がん」に傍点]ちゃん、君にひとつ、湖水めぐりをやってもらいたい
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