利きであったが、すでに危なかったそうです。すなわち、さしも腕利きの捕方も、すでにあの小男の一撃の下《もと》に危ない運命にまで立至らせられたものらしいが、半ば以下、形勢が急転して、難なく縛《ばく》についたものらしい。つまりあの小男は、最初のうちは、自分に疚《やま》しいところがないから、理不尽の取押え方に極力反抗したけれども、相手が、わかっても、わからなくても、とにかく正当の職権を以て来ているのを認めたから、ぜひなく縛についたという落着《らくちゃく》らしいのです。ところで縛りは縛ってみたが、連れて来て糺問《きゅうもん》してみると、なんらの罪がない――」
四
「ははあ、わかりました」
不破の関守氏は、青嵐居士からの一くさりを聞いて、相当の頓悟があったらしく、二度ばかり頷《うなず》く。
「罪のないものに刑は行えない、刑を行わんとすれば、相当な罪をきせてかからなければならん、そこであの先生、その政策にひっかかったのだな」
「そうです、時節がら、農民おどしの案山子《かかし》に決められたという魂胆なのでしょう、案山子として使用するには、不幸にしてあの男は恰好《かっこう》の条件
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