を備えていたものと認められる」
「ありそうなことです」
二人はここで、合点して多少の思案にうつりました。
二人の結論では、宇治山田の米友が、草津の辻で、ああいった運命に落されているのは、要するに時節柄、農民おどしのための案山子として使用せられているのだということの推想と断案とに、あえて異議がないもののようです。
かりにそうだとしてみても、こういうことをして、あの一人の若者を案山子に使用せねばならない時節柄の、農民の問題の急務ということについては、相当の予備知識がなければならない。
すなわち、こういうような時節柄であって、もしあやまって土地っ子の一人二人をでも捕えて刑に当て行う段になると、反動を増すばかりである。それをきっかけに暴動を誘発するようなものである。そういう場合に於ては、氏《うじ》も素姓《すじょう》もわからない風来者を捕えて、人身御供にして置けば、人気をそらして、群集を煙に捲くこともできるというものである。その意味の案山子としての使用物件には、米友公あたりは恰好の代物《しろもの》と目をつけられたものらしい。そうなると、案山子に使用せられた彼が運命こそ、不幸にも気の毒至極
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