のものと言わなければならぬ。
 青嵐居士は、かねて長浜にいてお銀様一党の行動を噂《うわさ》に聞いていた。ぜひ一度会ってみたいと、米友にまで、それを言葉にあらわしたことがある。その機縁がもう熟して、ここで二人が対面している。この二人の智者が対面して、談、米友の身の上のことに及んで、その立場がほぼ明瞭になってみると、あれをあのままで見過ごして置くわけにはいくまい。すでに、あれをあのままで見過ごさないとすれば、二人の話題は進行して、いかにしてあの男を救済せんかにある。
 あの男を救済せんとするには、代官を相手にしてかからなければならぬことが、当然わかり過ぎるほどわからなければならぬ。そのお代官も、公儀お代官なのである。徳川幕府直轄の天領お代官ということになる。
 してみれば、二人が打揃って、おとなしく「貰い下げ」運動でも試みようとするようなそんな甘い手では行くまい――だが、多数を率いて示威運動などはこの際、なお悪い――と観念してみたり、或いはまた他に別の手段方法を試むることにでもなるか、いずれにしても、この二人の知恵者が底を割った以上は、あの冤罪《えんざい》の晒《さら》し者《もの》を、あのま
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