を試みていた青嵐居士《せいらんこじ》その人であります。この二人の浪人者は至って穏かな問答ぶりでありましたけれども、その問題は、やはり農奴[#「農奴」に傍点]とちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]との上にかかっている。すなわち草津の宿の晒《さら》し者《もの》のことに就いて、一問一答を試みているのであります。
「ちょっと想像がつきません、洗ってみれば直ちにわかる身の上を、ことさらに誣《し》いて、彼をこの土地の農民扱いにして、そうして、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]の罪を着せて晒し者にしたということの処分が、どうも呑込めないのです」
と不破の関守氏が、青嵐居士への受け答えと共に新たなる疑問の主題を提供する。
「それは、ある程度まで想像すればできる、またそれを真正面から見ないで、反間苦肉として見れば、政策的に、時にとっての魂胆がわからない限りでもございませんがね……」
と青嵐居士、透《す》かさず相受ける。すなわち不破の関守氏は、宇治山田の米友が、突然ああしてちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]の罪を着せられて晒されたことの由に相当面食って、その理由内状のほどがさっぱりわからないと言うと、
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