ての村に於て、この際、如何《いか》ようなお願いの筋があろうとも聞き届けることは罷《まか》り成らぬ――村々からあらかじめ、そのお請書を出させて置いての勘定役御出張なのです。そこで老中派遣の勘定役が、両代官を従えて出張して参りましてな、郡村に亘《わた》って、検地丈量の尺を入れたのでござるが、もとよりお上のなさることだから、人民共に於てかれこれのあろうはずはないのでござるが、そのお上のなさるというのが、必ずしも一から十まで公平無私とのみは申されませんでな。
つまるところわいろ[#「わいろ」に傍点]なんですね。当節は到るところ、それなんだからいけませんなあ、わいろ[#「わいろ」に傍点]でもって、すっかり手心が変るんですからいけません。いったい、役人がわいろ[#「わいろ」に傍点]を取って、公平を失するということほど政治上いけないことはありませんね……今度の騒ぎも、そもそもそのお江戸の御老中派遣の勘定方が、わいろ[#「わいろ」に傍点]によって検地に甚《はなはだ》しい手心を試みたそれが勃発のもとなんで……」
江戸老中派遣の、わいろ[#「わいろ」に傍点]を取る役人が出張して、思う存分に竿を入れる。
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