りのない豊臣太閤が、同様の私刑に行われたという現象であって、一見して誰もが、相当に度胆を抜かれたが、その傍の捨札までが、いつしか書き替えられてあるということは、文字ある人だけが気のついたことであった。新たなる捨札の文言《もんごん》に曰《いわ》く、
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「コノ者、農奴ヨリ出世ノ身ニカカハラズ、農民搾取ノ本尊元凶タル段、不埒《ふらち》ニツキ、梟首申シツクルモノ也《なり》」
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この意味がわかるものもあるし、わからないものもある。いずれも度胆を抜かれた体に於ては同じものです。
十七
琵琶湖畔に農民暴動の空気が充ち満ちている――
ということは、前冊書にしばしば記したところであるが、その要領としては、「新月の巻」第四十九回のところに、不破の関守氏が、お雪ちゃんに向って語ったところに、「まあお聞きなさい、お雪ちゃん、こういうわけなんです、事の起りと、それから、騒動の及ぼす影響は……」と前置をして、
「今度の検地は、江戸の御老中から差廻しの勘定役の出張ということですから、大がかりなものなんです。京都の町奉行からお達しがあって、すべ
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