人も騒げば、我も騒ぐ。
「太閤様の晒し首」
子供たちは嬉しがって騒ぐが、苦笑せぬ大人とてはない。
何者がした悪戯か、いたずら[#「いたずら」に傍点]が過ぎる。まさに知善院蔵するところの天下一品と称せらるる豊臣太閤の木像の首を模して、斯様《かよう》な素人細工を急造し、そうして、昨日までの生きた現物と引換えてここへ晒《さら》したものに相違ない。農奴とはり出された宇治山田の米友にとってみれば、今度は、かりにも豊太閤の面影と引替えになったということになってみると、いささか光栄とするに足るというべきだが、太閤の影像にとっては迷惑この上もあるまい。
何の理由があって、何者がこういう摺替《すりか》えを行ったかということはわからない。無論、有司の仕業ではなく、何者かの最も悪趣味なるいたずら[#「いたずら」に傍点]であることはよくわかる。この時代に於ては、こういうたちのいたずら[#「いたずら」に傍点]が、よく流行したもので、その最も代表的なるものは、京都の等持院の足利家累代の木像を取り出して、四条磧《しじょうがわら》にさらしたことである。
しかして、この場合に行われたのは、足利家とはなんらゆか
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