はいざ知らず、日本には無いはずであります。だが、往来の人は、別段この農奴[#「農奴」に傍点]の文字には咎《とが》め立てをしないで、
「ははあ、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]者だな」
「なるほど、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]でげすな」
「ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]おますさかい」
「ふ、ふ、ふ、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]者めが……」
などと言い捨てて通るものが多い。それによって見ても、農奴の文字よりは、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]の文字が四民の認識になじみ[#「なじみ」に傍点]が深いらしい。
ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]といえば、すでに、ははあ、と何人も即座に納得が行くようになっている。その一面には、農奴は農奴でそれでもよろしい、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]に至っては、赦《ゆる》すべからざるもの、赦さるべからざるもの、ちょうさん[#「ちょうさん」に傍点]の罪なることは、まさにこの刑罰を受くるに価すべくして、免るべからざる適法の運命でもあるかの如く、先入的に通行人の頭を不承せしめて、是非なし、是非なしと、あきらめしむるに充分なる理由
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