くという使の手紙なんだ」
「まあ、お銀様がお一人で湖水めぐりをなさるんですか」
「いや、そういうわけではない、この手紙の内容によって察すると、弁信殿も、米友公も、よそながらお銀様が遠眼をつけていらっしゃるようだから、ことによると、あの連中をみんな一緒にして、舟を一つ借り切って遊覧をなさるつもりかも知れない、そうでなくても、この浜屋という宿は拙者が心づけをしてあるから、お銀様の身のまわり一切、心得て世話をしてくれるはずだ、ともかく、この七日ばかりの間は、お雪ちゃんと拙者が、万事この王国をあずからなければならん」
「湖水めぐりをなさる時には、必ずわたしも連れて行ってやると、お銀様はおっしゃっておりながら、それに弁信さんとも約束をしていたはずなのに、みんな、わたしを置いてけぼりにして行ってしまいなさるのが口惜《くや》しいわ」
「いや、なに、そういうわけではない、あの連中のやることは、てんでに気の向き次第だから、約束が約束にならないところに妙理があるのさ。というものの、我々に後を託して置けばこそ、気まぐれに他出ができるという信頼が、こっちにあるからなんだ。つまり、お雪ちゃんとこの拙者に王国を任
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