晴らしいものかも知れないが、その土地へ行って、世界一だとか、日本一だとかいう声の練れた島の娘たちの咽喉から直接《じか》に聴かなけりゃ、本当の味がわからないわね、地唄というものはみんなそうなのでしょう、日本のものを聞くくらいなら、わかるのを聞きたいわ、けれども、安来節や、磯節なんて、わたしあまり好かない、何か日本の唄でわかるのをうたって頂戴」
「デハ、カンカンノウ、キウレンスヲウタイマショウカ」
「あれは日本のじゃありませんよ、わからないことは同じよ」
「デハ、チョンキナ、チョンキナ」
「いけないわ、なんだか下品だわ」
「お前とならば……」
「いや味ったらしい」
「春雨」
「お前さんのがら[#「がら」に傍点]にないね」
「きんらいらい」
「駄目よ」
「越後獅子――イイデス」
「あんまりおきまりでねえ」
「十日戎《とおかえびす》」
「ぞっとしない」
「梅にも春」
「いよいよお前さんのガラにない」
「惚れて通う……」
「いやいや」
「デハ、オジョサン、何ガイイデス、アナタノ方カラ望ムコトヨロシイ」
「生意気をお言いでない、わたしの望むもの、お前にやれますか、やっぱり日本のものでない方がいいわ
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