い方が手練の払い方でしたから、先方唯一の武器を中天遥かにハネ飛ばしてしまったことは、この男としては相当の技倆です。
 ただ、その次の瞬間に、劇《はげ》しき一撃を食わせることもなく、無二無三に後退したのは、これは、たとえ無茶に打ってかかられたとは言い条、この相手は確かにお上役人としての役目の職権をもって来たものである――という見込みがついたから、抵抗しては悪いという遠慮で、そうして火の子を払うと共に、まず相手を痛めるよりは、身を全うするのが賢明だとさとったものでしょう。
 ところがこうして、無雑作《むぞうさ》にすり抜けて後ろに走った米友が、ある程度でグッと詰って、それ以上は走れない。彼の跛足《びっこ》の足の一方に、早くも捕縄が蛇のように捲きつけられていたからです。

         二百

 こういう場合に於て、米友としては、いつも出様が悪いのです。本来ならば、身に覚えなき疑いをかけられた場合に、先方が職権として立向ったものと見込みがついたならば、一応は素直に捕われてしまいさえすればいいのですが、この男にはそれができない。
 その素直になりきれない事情にも、また諒察《りょうさつ》すべき
前へ 次へ
全551ページ中547ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング