の罪も報いもない北国街道筋の古い町の、何も知らない民衆が気の毒だ。
ナニ、人は斬られないが、犬が斬られた? 人間ならばたまらないが、犬ならばいくら斬られてもよろしいという理窟があるか。
犬を斬る刃《やいば》は、人間を斬る刃なのだ。斬るべき人間にでくわさなかったから、やむなく犬を斬ったのだ。その惨虐の程度に於て、あえて相違があるものか。
百九十五
わが親愛なる宇治山田の米友は、こういう殊勝な慈悲心をいだいて長浜の町の夜を、ひとり物色して歩いているということは、誰も知るまい。
青嵐のいうが如く、この静かな町の中にも、富豪の圧制を憎む細民がいるかいないか。検地の代官を呪う一味徒党の片われがいるかいないか。また、水争いの公事《くじ》を、この辺まで持込んで、待機の構えでいる附近の農民が隠れているかいないか。或いは尊王攘夷《そんのうじょうい》が、海道の主流を外れたこの辺の商業地の間にまで浸漸して来ているかいないか。そんなことは米友としては知りもしないし、知ろうともするところではない。
彼としては、もはや、人間にせよ、畜類にせよ、およそ生きとし生けるものの、その一つを
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