、ロンドン
ツアン
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を折返すと、女もいい気持になって、ここぞと思うあたりで、先を越して、
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チーカ、ロンドン
ツアン
パツカ、ロンドン
ツアン
[#ここで字下げ終わり]
をやり出すものですから、期せずして合唱の形となって、今の先とは打って変った和気と、陽気とが、飄々《ひょうひょう》としてただよい出したというものです。
 時に、日が暮れかかりました。
「オ嬢サン、提灯《ちょうちん》ヘローソク入レマス、オ待チナサイ、ソウシテ、今夜ワタシ、アナタノ淋シイノヲ慰メルタメニ、一晩中、器量一パイウタイマス、ワタシ、知ッテル世界ノ国々ノ唄トイウ唄、ミンナ歌イマス、イチバンシマイニ日本ノ、歌イマス……夜ガ明ケテモカマイマセン」
 マドロスは、すっかり興奮しきっている。女も以前のようにむずかりません。

         二十

 そうしているうちに、北上川の沿岸に夜が来ました。
 夜というものは、ありふれた風景でさえも、少なくとも一世紀は昔に返して見せるものなのですが、この辺の風物そのものが、日中でさえすでに近世紀の代物《しろもの》ではないのですから、夜
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