う思って飛んで来て見るとな、人はいねえけれど、舟はある、大きな声をしてお前さんを呼んでみたが返事がねえ、暫く待っていてみたが、音沙汰《おとさた》がねえから、黙ってあの舟を借りちゃった」
「うむ、よしよし、それでよし」
浪人は鷹揚《おうよう》に肯《うなず》いてのみいる。これで、米友の小舟の出所がわかったのみか、その持主の諒解をも得たことになる。そこで、彼は引返そうとすると、浪人が待てと言いました。
「まあ、君、少し待ち給え、一緒に帰ろう」
一緒に帰ろうにも帰るまいにも、おいらもこの人の帰り先がわからねえが、この人もおいらの行く先を知っちゃあいまい。変なことだと思ったが、それでも米友は、そう言われると無下《むげ》に振切るわけにもゆかない。
おもむろに釣道具を片づけている浪人の左右を見ると、蓆《むしろ》の上に何か黄表紙が四五冊、散乱している。
百八十五
「君は、あの、なんだろう、このごろ、胆吹山の上平館《かみひらやかた》へ出来た組合の中にいる一人だろう」
と浪人から問いかけられて、米友が、少し眼をむいて、
「そうだ、それを、お前はどうして知っている」
「それはわか
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