のお喋《しゃべ》り坊主は、目も見えねえくせに、あんな離れ島で、たった一人で暮そうというんだから、てえげえ[#「てえげえ」に傍点]押しが太いや」
 全く、弁信があの島へ納まると決心した勢いは、米友の力を以てしても、手がつけられなかったと見るよりほかはない。
 米友は、ひとり弁信を残した多景島の方を見返り見返りしながら、無事に以前小舟を出発させたところの、古城址の臨湖の岸まで漕ぎ戻ってまいりました。

         百八十三

 小舟が岸に近づくと、米友は棹《さお》を返して、蘆《あし》の生い茂った一道の水路の中へ、舟を漕ぎ入れてしまいました。
 これは、古城址としての、この臨湖の一廓に、昔の廓壕《くるわぼり》の名残《なご》りでもあるが、水の湾入して、蘆葦《ろい》の生いかぶさって、その間に、面白い形をした松が所々にうねっている、その間を、蘆分小舟《あしわけおぶね》の画面になって、米友が漕いで行くのは、おのずから一定の針路があるに相違ありません。
 もとより、米友自身が、一隻の小舟をも所有しているはずはないから、どこからか借受けて出発したものに相違ない。すでに借受けて出発したものとすれば、
前へ 次へ
全551ページ中502ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング