いか」
「もう駄目だよ」
 仏須寺が頭を振るのがよくわかる。そうすると、丸山勇仙が、
「もう駄目だよ、君と僕たちとの距離は、単に山の上と下だけの距離じゃないんだ、我々は君のところへ下りて行けない、君は、我々のところまで上って来られない、そこにいて話をするさ」
「ちぇッ」
と兵馬は、それをもどかしがりながら、思いきって、
「では、ここで君たちにたずねたいが、机竜之助は今どこにいるのだ、君たちが隠したとは言わないが、たしかにそれを知っているように思われてならぬ、それをひとつ明かして行ってくれ給え」
「なに、机竜之助?」
「うむ、机竜之助の行方《ゆくえ》だ」
「おい、丸山」
と、これは仏頂寺の声で、兵馬の問いに答えたのではなく、丸山勇仙をかえりみて、とぼけたような声で、
「君、机竜之助とかなんとかいう人物を知っているかい」
「何だって、机竜之助?」
 丸山勇仙が、またとぼけた面《かお》をしているので、兵馬がむっとしました。

         百二十三

「君たち、しらを切ってはいけないよ、君たちが机竜之助を隠している。隠していないとすれば、少なくとも拙者が竜之助にめぐり会うべき機会を妨げた
前へ 次へ
全551ページ中339ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング