えても、あれからの自分の足で、奥州の安達ヶ原まで走れるはずはないから、いずれ江戸府内、近郊の寺に相違あるまいが、それにしても墓地が広大だと思わざるを得ない。
 いずれにしても、この墓地を突切って、垣根の破れでも壊して、往還へ出てしまえばこっちのもの。この墓地の中で怪しまれてはつまらない。幸いなことには、やっぱり暗夜で、誰も神尾を怪しむために、深夜この墓地に待構えている人はない。神尾は広い墓地の中を縦横に歩いて、その出口を求めようとしたが、ありそうでなかなかない。
 墓地の中をグルグルめぐりしているうちに、はたとその行手に立ちふさがったものがありました。雲突くばかりの大入道が一つ。これにはギョッとして、思わずタジタジとなったが、改めてよく眼を定めて見直すと、これは巨大なる石の地蔵尊の坐像であったことを知って、いささか力抜けがしました。
 右の巨大なる石の地蔵尊が安坐しているその膝元には、まだ消えやらぬ香煙が盛んに立ちのぼり、供えられた線香の量が多いものだから、香火が紅々と燃え立つようになっている。
 神尾は、変なところへ来たものだという感じがしました。

         百十四

 神
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