三輪ならば、相当のブラブラ区域です。
神尾主膳も一議に及ばず、びた[#「びた」に傍点]の勧誘に応じて出動したくらいですから、最初のほどはかなり気をよくして、ブラブラ歩き出したものですが、そのうちに、またも気色《きしょく》を悪くしてしまいました。
それは、あの辺には、寺と、広い武家屋敷とのほかに、百姓地が多くある。それからまた、千住《せんじゅ》から三輪街道のあたりは、かなりの百姓街道になっている。
もとより、往来するものは百姓だけではないが、あいにく、この日に限ったことではないが、近在の百姓連が多く、それも、神尾の姿を見て、多少の畏憚《おそれ》を以て行き違うものもあるが、どうかすると、あぶなく突き当りかけて、かえってこっちの間抜けを罵《ののし》り顔に過ぎて行くものもある。
その百姓を見る時に、神尾の気色がまた悪くなりました。
神尾は生れながら、百姓というものは人間でない――ものの如く感じている。
それは、当然、階級制度の教えるところの優越性も原因することには相違ないが、それほど神尾というものが、百姓を、忌み、嫌い、呪うというのは、別にまた一つの歴史もあるのです。
それは、神
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