も勤王なんかと言わねえ先から勤王を唱えてな、日本の政治は天子様のお手元へお渡し申さなくちゃいかん――という説を唱えたもんだから、関東のお役人に睨《にら》まれて、とうとう首を斬られてしまっとうだ」
「えッ!」
 首を斬られたと聞いて、聞いている者が驚きました。
 そういうエライ人、有名な人で、他国の者までお墓へ参詣に来る、ことに徳大寺様といったような、天子様御親類筋に近い身分の方までが御参詣に来るくらいだから、よっぽどエライ人に違いないと思って、与八をはじめ聞いていたのに、その人が突然首を斬られたと聞いたものですから、聞いていた二人が、えッ! と言って眼を見合わせたので、富作さんも、世を憚《はばか》るように声を低くして語りつぎました、
「大弐様はエライ大学者でね、朝廷のお公卿様《くげさま》や、諸国のお大名方で、争って大弐様のお弟子になったちうことです。なんしろ大学者だから、諸子百家の学問から、医学に至るまで、学問という学問に通じておいでなすったが、ことに兵法軍学の方の大家でなあ、人の気づかない意見を述べたものだから、江戸の方のお役人から睨《にら》まれてい申した。ある時、本当にそういう御了
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