思召して、十八の時、お家をお出になりまして、あまねく名山、大川、神社仏閣の霊場めぐりをなさいまして、最後に富士のお山へおいでになりました。ここぞ御自分の畢生《ひっせい》の御修行場と思召して、お頂上、中道《ちゅうどう》、人穴《ひとあな》、八湖、到るところであらゆる難行苦行をなさいました、それからいったんお国許へお帰りになりまして、また再び富士のお山の人穴に籠《こも》って大行をなさいました。そうして、ひたすらに天下泰平、万民和楽をお山の神様にお祈りあそばして、幾年月の間、外へはお出になりませんでしたが、その間、織田信長公の天下が太閤秀吉様になり、それから権現様《ごんげんさま》の御政治になって、天下がはじめて泰平になりました。それをはじめて知って、角行様は大願成就とお喜びになりました。それが御縁で角行様は、この富士のお山こそ御国のしるし、御国はまた万国のしるし、取りも直さず富士のお山は、天御中主神《あめのみなかぬしのかみ》、高産霊神《たかみむすびのかみ》、神産霊神《かみむすびのかみ》の御三体の神様の分魂《わけみたま》のみましどころであるということを、御霊感によって確然とお悟りになり、そこで、
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