「だれ」に傍点]癖のついた土地柄は、金次郎様の力でも一朝一夕に直すというわけにはゆきませんでなあ、いや、血を吐くように御苦労をなされたものなのだ。土地の人の惰弱だけならまあいいが、よけいな奴が出しゃばって来て、つまらない改革をするといって、わざと金次郎様の命令に反《そむ》いたり、その事業の邪魔をしたりな、それはたいへんなものでござったので、金次郎様もどのくらい苦労なされたか知れたものではない。そのうちにある時のこと――金次郎様が村を通りかかりますと、一人のお婆さんがあってね、それが、外に出ていた草鞋《わらじ》を取り上げて、ていねいに、ちょうどお前さんがしたように、押しいただいて内へしまったのを、金次郎様がごらんなさいましてね」
八十八
「お婆さんが草鞋を押しいただいて内へしまいこんだのを、金次郎様がごらんになってな、はて珍しい、奇特なことだと、そのお婆さんに問いただしてみると、そのお婆さんは、日頃からちゃんと鳩ヶ谷の三志様の教えをお聞き申している――ということがわかって、金次郎様がなるほどと感心をなさって、そういうわけならばわしもひとつ三志様にお頼みをしようと、そ
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