と、あちらから乗込んで来た一行も、何か事の仔細を、新たに向うへ渡ろうとする旅客に話しかけようとする気分が動いていたからで、そういうことに頓着ない老人子供などは、先へ乗込んだけれども、なかには、まだ一舟遅らせても新来の客と話し込んでみたいという者もありました。それがカチ合って、茶店の中での問答に興が乗ってきました。
今度は、物騒な川破り男もいないし、役人も行ってしまったから、心置きなく乗合衆の世間話に興が湧き上って来る。
田山白雲としても、この際、ちょっと立てなくなりました。只今さっさと風を切って立去ったところの、あの長剣短身の男の行方もどうやら気になる。そうかといって、この場へ齎《もたら》されて花が咲こうとしている向う河岸《がし》から新来の旅客の世間話が、どうしてもこの際、聞きのがせないものの一つとなっているようだ。
「えらいことじゃ、南部の御家老様のお嬢様をそそのかして、連れて逃げた奴がござる、その追手じゃな――それと前後してからに、南部の御城下で、お歴々の首を斬って立退いた奴があるとのことじゃ、それでお目つけがああしてお調べにおいでじゃわい」
と、向う岸から来た乗客のうちの年配
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