ましてな」
「では、お前は、わたしのお父様の旅をなさるあとをつけて、何か奪い取ろうとしたのですね」
「いや、その、ちょっとね、ちょっと行きがかりに、今いう、その、路用てやつを少々おねだり申したいと、こう思いましたばっかりなんでげすが、それが、その、みんごとしくじって、瓦っかけを抱かされちまったのが一代の失敗《しくじり》、これじゃ商売|冥利《みょうり》に尽きるといったようなわけで、再挙を試みたが、さいぜん申し上げる通りの用心堅固、大津まであとをつけて、やっとの思いでこの一腰《ひとこし》を拝領に及びました、そこで様子を窺《うかが》って見るてえと、この大物の身上がすっかりわかりました。わかりましたけれども、このうえ押せば、こっちの足もとが危ない、それ故《ゆえ》よんどころなく、この一腰だけを拝領に及んで引上げてまいりました。そこで、改めて今度はそれを御縁に、お嬢様のところへ伺いを立てに参上致した、と、こういったわけなんでございます」
「では、わたしの父親の方は用心堅固で、どうにもならないから、わたしの方は女の身だからどうにでもなると思って来たのかい」
「そういうわけじゃございませんが、そこは親
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