っぷりにしてからが、ああもしたら、こうもしたらと、見え[#「見え」に傍点]に浮身をやつすよりは、数を多くかぶるに越したことはない。数を多くかぶっていさえすれば、ことさらにスマートを気取らなくても、一見して整った形になり、整った揚句に、ちょっと人を魅する姿勢が出来てくる。
これはあえて頭巾のかぶりっぷりに限ったことはあるまい。手拭一つ被《かぶ》らせてみたところで、野暮《やぼ》と粋とは争われない――況《いわ》んや大機大用に於てをや――というわけだ。
そこで、この人の覆面ぶりは慣れて、おのずから堂に入ったものがある。この点に於てはお銀様とても同じことです。二つながら、晴れてはこの眉目を世に出すことを好まざるもの、覆面を通してはじめてこの世相を見ようとも、見まいともしているもの。
暫くして、この覆面の男は、手をさしのべて、床の間の刀架から一刀を取外して膝に載せました。一刀といっても、わけて言えば小の方、或いは脇差の方といってもよろしいかもしれない。厳密に言えば、刀に対しては脇差といえる。大小を一対として分離し難いものとして見れば、その小の方だけを取って膝の上に載せました。
膝の上に載せ
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