れは、ただ人間の面へ布を巻きさえすればよいというわけのものではない。覆面にも覆面の歴史もあれば、スタイルもある。同じものを同じように巻かせても、その人の人柄と、洗練とによって、都ぶりと、田舎者《いなかもの》ほどの相違もある。つまり着物にも着こなしの上手下手があって、同じものを着せても、その品に天地の好悪《よしあし》が出来ると同じことに、単に黒い布片を面に巻いただけのしぐさではあるけれども、そのまきっぷりにより、人柄そのものの活殺も生ずるというわけなのである。
 ところで――この覆面の人の覆面ぶりは、かなり堂に入《い》っているものと見なければならぬ。今時の流行語をもってすれば、かなりスマートな覆面ぶりである。覆面をこの辺まで被《かぶ》りこなせることに於ては、相当その道の修練と技巧とを備えていなければならないので、どうかすると、覆面をしていない時よりは、覆面をしている生活の時間の方が長い、覆面界の玄人《くろうと》である。

         七十三

 日本覆面史の、最近の幾多の実例によって、この人の被っている覆面ぶりを一通り検討してみると――
 頭に角《つの》のついた気儘頭巾《きままずき
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