すが、分を知ることの聡明な人に限って、この醜態から手際よく免れる。
 そこで、夜は悪魔の領土であり、昼は人間の時間である。
 悪魔にも生存の権利がありとすれば、それは夜間に限ってのみ、食を漁るの時間を与えられる。
 そこで気の利いたお化けは――お化けというものを仮りに悪魔の親類とみなして――己《おの》れの領土と時間のあまり切迫しない間に、手際よく後方機動の実をあげなければならない。
 この場では、一つの悪魔は木の上で藁《わら》の人形を虐殺して、その残忍性と復讐性とを満喫したけれど、引込みが甚だまずかったために、次に現われた悪魔のために食われてしまった。さてその次に現われた悪魔といえども、悪魔である限り、その領分の分界を知らなければなるまい。
 そうこうしているうちに、東の方が白んできて、そこで旗を巻くのではもう遅い。
 果してそこへ第三の悪魔が現われました。第三の悪魔が、第三の食物を求むるために現われました。
 第三の悪魔というのは何ものにして、その求むるところの食というのは何物ぞ?
 あらかじめここに一応、時と食との解釈をして置かなければならぬ。
 仏教に於ては、正午前だけが時であっ
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