「あけて口惜しき、ということになるんじゃないかね」
「そんなことがあるものか」
「さあ、あけますよ」
「よし」
 百蔵は、行燈を引きずって来て、この玉手箱の傍近いところへ持寄せ、勿体《もったい》らしく、息をはずませて蓋《ふた》を払って見ると、
「どうだ、どうだ」
「真黒いものがあるよ」
「※[#「王+毒」、第3水準1−88−16]瑁《たいまい》じゃないか」
「何でしょうね」
 お蘭どのが引出して見ると古い瓦です。横から見ても縦から見ても古い瓦です――念のため、その次のを取り出して、ためつすがめつ、四つの目で見たけれども、古い瓦のほかの何物でもないらしい。その古い瓦もほとんど、完全というのは一つもなく、片々《へんぺん》になったのや、継ぎ合わせてみるとどうやら一つの円い輪郭を成すようなものばっかり、ついに瓦々で玉手箱の底を払ってしまうと、お蘭どのが白っちゃけて、
「何だ、お前さん、こりゃ瓦じゃないか」
「そうだなあ――瓦だなあ」
「瓦だなあ、はよかったねえ、高山でドジを踏んで、みずてんに出し抜かれ、その腹癒《はらいせ》をわたしのところへ持っておいでなすったのかえ」
「こいつはどうも……」
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