うしてなにかね、その孝行のきき目がありましたかい、みんごと三百両のお手元金を無事に取戻して来ましたかね。またあのみずてんがすんなりと渡してよこしましたかね」
「そいつだ」
「そうらごらん!」
 お蘭は、失望と、揶揄《やゆ》と、ザマを見ろといったような捨鉢気分で突っころがすと、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は真顔になって、
「そこは、何と言われても仕方がねえ、行って見ると逃げたんだ、和泉屋の芸妓《げいしゃ》福松という奴は、宇津木という若い侍をそそのかして、白山詣でにかこつけて駈落をきめこんだという専《もっぱ》らの評判、そのあとへ罷《まか》り越したこの色男――」
「器量がよかったねえ」

         四十九

 ここで、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百の野郎が、淫婦お蘭どののためにさんざんに油を搾《しぼ》られました。
 本来が、このお蘭は飛騨の高山の新お代官の妾である。
 高山を出奔《しゅっぽん》して、寝物語の里でうじゃついている間に、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百と出来合って、百の野郎が自慢面に、高山へ取残して置いた三百両ほどのお蘭どののお手許金を、三日の間に持って
前へ 次へ
全551ページ中134ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング