へ持って来て、念入りに備えつけました。その物々しさを見ると、主人も相当にたしなみがあるらしい。してみると、これは何かしかるべき茶器の類《たぐい》の珍物だな、それをさいぜん、話のきっかけで当りをつけ、拝見したい、お見せ申しましょう、ということにでもなっての結果らしい。それは見るだけだか、見ての上で相当の取引が持出されるのだか、もう取引済みになっているのか、それまではわからないが、ともかくも、色と言い、形と言い、蒼然たるさびのついた古代切入《こだいぎれい》りの箱物でありました。多分好きな道なのでしょう、こういった道中に於ても、伊太夫は、この品を、このままでは閑却しきれないと見えて、包みの結び目をといて、箱の蓋《ふた》を払うと共に、眼鏡をかけて燈火の下近くさし寄りましたのです。

         四十三

 それから伊太夫は、箱の中へ手を入れて、大事そうに取り出したものを見ると、それは古い瓦でありました。
 その古瓦を一枚取り上げて吟味をはじめたところを見ると、伊太夫は相当、考古学に趣味を持っているらしい。無論、考古学というような一つの科学としてでなく、骨董癖《こっとうへき》の一種として、
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