《てい》で出立した藤原の伊太夫であります。
 この一行が関ヶ原の旅を急いで行くと、新月が淡く原頭のあなたにかかって、黄昏《たそがれ》の色は野に流れておりました。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は、背後《うしろ》から――その一行、大小取交ぜて五人連れでした――その五人をいちいち吟味しながら、つけて行ったが、いずれもがっちりしていること意想外であるのに驚かされたようです。
 第一――その主人公と見えるのが、大様なふうではあるが、なかなか隙がないし、附添の者みな質朴に外観をいぶしているが、いずれも油断がない。
 別に親の仇をねらうわけではないから、人間そのものには望みはないけれど、この五人のうち、誰が現ナマを最も多く保管しているのか、それに当りをつけるのが要領だが、どうもがんりき[#「がんりき」に傍点]の野郎の眼力《がんりき》をもってして、五人のうちのどれが金方《きんかた》だか、ちょっとわからないのが自分ながら歯痒《はがゆ》い。

         四十二

 伊太夫一行の泊った旅宿は、さきにお銀様の泊ったと同じ関ヶ原の本宿でありました。しかもその室さえ同じことに、娘の泊った座敷へ、
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