信長よりも、こういう人を好くことがある。
 しかし、不破の関守氏は、土地の関係上、竹中半兵衛に興味をこそ持て、これを研究こそしておれ、自分が半兵衛を以て自ら任ずるほどには己惚《うぬぼ》れていないこともたしかです。だが、興味を持ち得るところは即ち素質の存し得るところですから、こういうのが功を積み、時を得ると、天下の風雲をそそのかすような隠し芸をやり得ないとは限らない。
 天下の風雲を唆《そそのか》すほどのことをやり得られないとしても、天一坊を得れば山内《やまのうち》、赤川となり、大本教を得れば出口信長公となり、一燈園を作れば西田天香となり、ひとのみち教団へ潜入すれば渋谷の高台へ東京第一の木造建築を押立てるくらいのことは、仕兼ねないと見なければならぬ。
 世には絶倫の器量を持ちながら、とうてい脇師以上には出られない人があり、欠点だらけでも、立役《たてやく》の巻軸に生れついたような人もある。人それぞれ、自分の器量を自覚し得ればそれに越したことはない。不破の関守氏は、この点に於て甚《はなは》だ聡明であったようです。自ら番頭以上を以て居らず、お銀様を押立て、これを主として事を為《な》すという働き
前へ 次へ
全551ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング