土瓶蒸と聞いちゃ、こてえられねえ」
仏頂寺は仏頂面《ぶっちょうづら》をしながら、でも、松茸の土瓶蒸がまんざら[#「まんざら」は底本では「まざら」]でもないと見えて、しぶしぶ引返して行くのです。
十三
仏頂寺が以前の地点へ立戻って見ると、丸山勇仙は、もうかいがいしく料理方を立働いている。
なるほど、土瓶蒸の献立がすっかり出来上っている。原料の松茸は、途中こころがけて山路で採集して来たものであろうし、それを土瓶に仕かけて水を切って、火を焚きさえすれば口へ運べるようにととのえて持って来ているらしい。
おまけに彼は一瓢《いっぴょう》をも取り出して、そこへ並べてあるのは、松茸の土瓶蒸だけでなくて、紅葉《もみじ》を焚いてあたためるの風流にも抜かりがないとは、なんと優しいことではないか。
仏頂寺はそれを見ると、相当に仏頂面をほぐして、草を褥《しとね》にどっかと腰を卸したところへ、如才なく丸山勇仙が猪口《ちょこ》をつきつけました。
「松茸の土瓶蒸で一杯やるかな――」
仏頂寺が仏頂面に涎《よだれ》を流してそれを受ける。
かくして二人が、土瓶蒸を肴《さかな》に、とりあえ
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