も亡者亡者と呼んでいる」
 こう言って、二人は物蔭で私語《ささや》き交していたが、
「あら、また、やって来ますよ」
 一時《いっとき》、立ち止って、こちらを透《すか》して見ていたような仏頂寺が、またのっしのっしと草原を分けて来るので、福松はまた兵馬に一層深くしがみつきました。
 なるほど、執念深い彼等のことではあり、異様な六感が働いて、ほんとうに我々のここにいるのを気取《けど》ったかな。もしそうだとすれば……兵馬はここでかえって機先を制して、こちらから身を現わして出て行ってみようかと思ったが、それは女にからみつかれていて、にわかに転身が利《き》かない。
 そうしていると、突然、あちらの方で、
「仏頂寺、仏頂寺!」
 高らかに呼ぶのは、丸山勇仙の声であります。
「何だい」
 それに答える仏頂寺の声が、今日はいつもより一段と太くてすさまじい。
「松茸《まつたけ》の土瓶蒸《どびんむし》をこしらえて食わすから来い」
「ナニ、松茸の土瓶蒸!」
と言った返事が、やっぱりすさまじく四辺にこだまして聞える。
 仏頂寺が振返って見ると、丸山勇仙が、以前の地点で盛んに火を焚きつけている。
「ふーん、松茸の
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