笑するところに、なんとなくすさまじい響がする。仏頂寺弥助に至っては、右の縮緬の胴巻を面《かお》へこすりつけるようにして、面と手をわななかせたり、また、急に思い出したように、忙しく前後左右、原、藪《やぶ》、木立を見透《みすか》したり、どうしても落着かないものになっている。
そのくせ、二人のいる四辺《あたり》は、真昼であるにかかわらず、急に白けきってしまって、二人の者が、こだまにでもおどる亡者のように見える。この二人が、亡者のようにフラフラと行方定めず歩いているのは今に始まったことではない――五体もあり、むろん足もあり、人間たることは紛れもないが、二人がのこのこと歩くところは、どうあっても白昼の亡者としか見えない。
「おい、隠れるなよ、隠れたってわかるぞ、我々共とても、鬼でもなければ虎狼でもない、みだりに取って食おうとは言やせぬぞ、これへ出て、もう一度、今のいい咽喉《のど》を聞かしてくれんかいな」
仏頂寺弥助が、四方を見廻しながら、咽喉が乾いて舌なめずりでもするかの如く言いかけたのが、四方の静かな峠路の林まで、沁《し》み入るように響き渡りました。
十二
木蔭から
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