」
「これをごらん下さいまし。ただごらん下さるだけじゃいけないのよ、ここまでは、わたしが持って来ましたけれど、これからはあなたに持たせて上げなけりゃ、わたしがやりきれません」
と言って、女はその胴巻をまた取り直すと見ると、なるほど、ずしりとかなりな重味です。ははあ、金だな、金として見ると相当な大金だ、この女、商売柄に似合わず心がけがよい、今日まで稼《かせ》ぎためて、この際、最も有効に持ち出したものだろう――と、兵馬が横目に見ていると、女はその胴巻を無雑作《むぞうさ》に吊《つる》し上げて、蛇の腹をでも逆さにしごくように持ち上げると、スルスルと中からおもみのあるものが、花野原に向って吐き出されました。
「宇津木様――これから、このお宝をそっくりあなたにお引継ぎいたしますから、よろしいように」
「ははあ、大金のようだな」
「え、わたしたちとしては、大金なんでございますが」
「いったい、いくらあるのです」
「三百両ございましょう、そっくり小判で」
「三百両――」
と言って、兵馬が実は内心、大いに驚きました。最初から不相応な重味とは見ていたのだが、小判で耳を揃えて三百両の包み、これは断じてこの女
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