り惜しくって、飛騨の高山まで逆戻りの危ねえ綱を渡るでもねえ、三百両が欲しけりゃ、どこかもう少し安全な方面へ当りをつけたって、つかねえ限りもあるめえものだが、あいつにあの手文庫のままのやつを持って来て見せてやりてえ――まあ、お前さん、本当に持って来て下すったねえ、何という凄《すご》い腕でしょう、わたしゃ、お前さんのその片腕にほんとうに惚《ほ》れちまったよ――なあんて、あいつを心から参らせてみるのも悪い気がしねえテ」
百の野郎は、いや味たらしい思出し笑いをした上に、
「さてまた、福松の阿魔だがなア、あいつがまた、こちとらの面《かお》を見せるとただは帰《けえ》すめえがの――色男てやつは、どっちへ廻っても楽はできねえ」
八十一
こういった意気組みで、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百の野郎が、高山へ向けて自慢の迅足《はやあし》で飛んで行って、あの警戒の厳しい中を、首尾よく宮川通りの目的地まで、忍んで行ったには行ったけれども、御神燈の明りが入っていないことで、まず胆を冷し、叩いてみると、おとといあき家になっていたということで、ベソを掻《か》いてしまったのはいいザマです
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