りゃならぬ、そこで事務の方は太平に任せて置けば心配はなし、お前さんは、ただ本家の方へ来て、すわっていてもらいさえすればよい」
 これが洒落者《しゃれもの》ならば、なるほど、与八ならば据わりがいい――と交ぜっ返したくなるような頼みなのですが、頼む方も、頼まれる方も、最もしんみりしたものなのです。与八は一途《いちず》には引受けるとは言いませんでした。
「旦那様が、今、旅にお出かけになることが、いいことだか、悪いことだか――わしらが留守を頼まれる方は、なんでもないことなんでございますが」
と言いました。
「まあ、誰彼に言い触らすと、留める者も出て来るし、また有野の伊太夫が上方見物に出かけるなんぞと近辺に取沙汰が起ると、事が大きくなって面倒だし、それに今時は物騒な世の中だから、道中、どんな悪者や、胡麻《ごま》の蠅が聞きつけて、附き纏《まと》わないとも限らないから、わしは隠れて行くのだ、これから一人か二人、ともを選んで誰にも気取《けど》られないようにして出かける」
「旦那様が、そこまで御決心をなすったんじゃあ、わしらがお留め申したって、おとどまりなさるはずもござんすめえから、お留守のところはお引
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