も常々与えてあるのですから、今まで、主人にはいちいち通告せずに、老番頭一人で取計らって、請求がありさえすれば、少しも猶予せずその請求額だけを、どしどし払い渡してやっていたのですが、今やここで、その全部をよこせ――と提言をして来たのですから、無論、老番頭一存では計らいきれず、それを聞かされた伊太夫さえも、一時《いっとき》うなってしまって、ついに何とも判断の下せない形になったのも無理がありますまい。
伊太夫の身上は、これをかりに見つもっても、何千何万になるかは容易に計上し難いのであります。容易というよりは、全く金銭に換算しては計上し難いと見るのが至当でしょう。そのうちから、お銀様とても、株券をいくら、債券をいくらと分譲されたわけではないのですから、現金のほかは、山林であり、田畑であり、或いは家屋敷倉庫の一部分、衣類や書画|骨董《こっとう》といったようなものなのですから、それを残らず金に見積ることは、やっぱり不可能と言ってよいのですが、いちばん可能性のある金銀だけに就いて言ってみても、果してどのくらいの額に上るでしょうか。大正昭和の頃の、甲州第一の富豪といわれる某氏の財産を、かりに八千万円
前へ
次へ
全439ページ中417ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング