ここで逃《のが》い[#「い」に傍点]ては――」
と気を取り直し、また鉄砲を肩につけた。猿はじっとこっちを向いて、なおも一生懸命に拝んでいる。与次郎はたまらなくなって、また鉄砲を投げ出した。
 ちょうど与次郎の家にも、生れて間もない赤ん坊があった。与次郎は自分が家を出かける時、その赤児と別れるのが、なんぼ辛《つら》かったか知れなんだのを思い出し、人に物を言うように、
「なア猿、かわいそうどう[#「どう」に傍点]けんど、ぜひおれに命をくりょ、殿様のたってのお望みで仕方ンない、ちょうどわしにもお前ぐれえの赤児がある、無理もないこんどう[#「こんどう」に傍点]、お前の子供はおらがのおしゅんといっしょに、おしゅんのアンマ[#「アンマ」に傍点](乳)をくれてきっと立派に育ててやる、そんだから、な、頼むからわしに命をくりょ」
 こう言うと与次郎は、三度目の鉄砲を取り、心を鬼に取り直してグッとひき金を引いた。
 猿は見事に喉をぶち[#「ぶち」に傍点]ぬかれてバッタリと倒れた。与次郎は自分も貰い泣きをしながら、泣き叫ぶ赤児をようやく親猿から引離してヒトコ[#「ヒトコ」に傍点](懐ろ)へ入れ、親猿をショっ
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