因とは、よくわかっていないのです。しかし、その理由と、原因をわざわざと探し求めるまでもなく、米友の身の周囲《まわり》に降りそそぐ石礫《いしつぶて》が、とりあえずこの不穏を報告する。
二
片手で馬の轡を取りながら、そうして、石の飛んで来る前岸を見込むと、さても夥《おびただ》しい人出。
向う岸の土手の全部が、ほとんど人を以て埋っている光景を、米友がはじめて見ました。
「やあ、大変な人だな、蟻町《ありまち》のようだ」
石の礫は、その夥しい人類の中から降って湧いて来ていることに相違ないが、この夥しい人類が、いつのまに、何のためにここへ現われたのだか、それはひとまず米友の思案に余りました。
なるほど、荒れ馬の飛んで来るのは危ない。それ故に村の人が警戒を試むるのもよろしい。だが一頭の家畜のために、これだけの人数が繰出して来るとは――第一、馬がこの川原へ来るか来ないうちに、その危険をおもんぱかって、これだけの人数をかり集め得たとすれば、その人寄せは人間業ではない。
しかしまた、他に目的あってここに待構えているんなら、何かその目的物がありそうなものだが、あいつらの面《つ
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